給料の「引かれるお金」がぜんぶわかる

最終更新: (労働基準法37条・関連通達に対応)

年俸制に残業代は出ない?——割増賃金と「年俸に含む」場合の注意

結論: 「年俸制だから残業代は出ない」は正確ではありません。賃金の決め方が年俸か月給かにかかわらず、実際の労働時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えれば、残業代(割増賃金)は別途必要です。年俸に残業代を「含む」とする場合は、割増賃金部分が明確に区分され、法定額以上支払われていることが条件になります。この記事で、年俸制ならではの注意点を整理します。

30秒でわかる「年俸制と残業代」

よくある誤解「年俸制になったら残業代は一切出ない」
正しくは賃金の決め方に関わらず、法定労働時間を超えれば割増賃金は別途必要
年俸に「含む」場合割増賃金部分が明確に区分され、法定額以上払われていることが条件
賞与部分の注意あらかじめ確定した年俸の賞与部分は、割増の算定基礎から除外できない
扱いが変わる人管理監督者・裁量労働制などに当たる場合は割増の扱いが変わることがある
迷ったら労働基準監督署内の総合労働相談コーナー労働条件相談ほっとライン

自分の残業代のめやすは残業代計算ツールで概算できます(年俸を月額に直して入力)。割増率のまとめは残業代の割増率まとめをどうぞ。

1. 年俸制でも残業代は出る——賃金の決め方は関係ない

「年俸制になったら残業代は出ない」と説明されることがありますが、労働基準法にそのようなルールはありません。年俸制は1年単位で賃金額を決める「賃金の決め方」のひとつにすぎず、それによって残業代の支払義務がなくなるわけではありません。厚生労働省も、年俸制について「実際の労働時間が一週又は一日の労働時間の法定労働時間を超えれば、原則として、割増賃金を支払わなければなりません」と案内しています。

つまり、賃金の決定の方法にかかわらず、時間外・休日・深夜の労働に対する割増賃金を支払う必要があるという点は、月給制でも年俸制でも同じです。時間外は25%以上、法定休日は35%以上、深夜(原則22時〜翌5時)は25%以上の割増になります。

2. 年俸に「残業代を含む」とする場合の条件

実務では、労使の合意で「年俸に一定時間分の残業代を含む」とする例があります。これ自体は可能ですが、有効と認められるには、固定残業代と同じ考え方で次の点が必要とされています。

①区分できること通常の労働時間に対応する賃金部分と、割増賃金相当部分とを区分できること
②法定額以上であることその割増賃金相当部分が、法定の割増賃金額以上支払われていること
③超過分は別途含まれる割増賃金相当額に対応する時間数を超えた分は、別途割増賃金が必要

区分があいまいな場合や、年俸に含まれる割増賃金相当額に対応する時間数を超えて時間外労働をさせ、その超えた分の割増賃金が支払われていない場合は、労働基準法37条違反になり得ます。「年俸に含んでいるから追加は不要」と一律に扱えるわけではない、という点は固定残業代(みなし残業)と共通です。

固定残業代・みなし残業の考え方は固定残業代とはみなし残業とはでくわしく整理しています。

3. 見落としやすい——確定した年俸の「賞与部分」は算定基礎に入る

残業代を計算するときは、まず割増賃金の基礎となる時給(基礎時給)を求めます。この基礎となる賃金からは、賞与などを除外できるのが原則です。通常の賞与は、あらかじめ額が確定しておらず、1か月を超える期間ごとに支払われるため、割増賃金の算定基礎から除外できます。

ところが年俸制では注意が必要です。毎月払い部分と賞与部分を合計して、あらかじめ年俸額が確定している場合、その賞与部分は「臨時に支払われた賃金」にも「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」にも当たらないとされ、割増賃金の基礎となる賃金から除外できません。たとえば「年俸の一部を夏・冬の賞与として支給する」形でも、年俸額があらかじめ決まっているなら、その賞与部分も含めた確定年俸額を基礎にして残業代を計算することになります。

この扱いは、月給制の一般的な賞与とは異なるため見落とされがちです。年俸制で残業代を計算するときは、賞与部分を除いてしまうと基礎時給が実際より低くなり、残業代が少なく計算されてしまう可能性があります。

4. 年俸制の残業代の計算イメージ

計算の考え方は月給制と同じです。年俸額を12で割った月額をもとに、1か月の平均所定労働時間で割って基礎時給を求め、それに割増率と残業時間を掛けます(賞与部分が確定年俸に含まれる場合は、上の3章のとおりその分も基礎に含めます)。

たとえば、年俸を12回に分けた月額が30万円(賞与を別に定めない前提)の人が、ある月に法定時間外の残業を20時間した場合、当サイトの計算エンジンで試算すると残業代の目安は約45,918円です。基礎時給は約1,836円になります。

年俸を12分割した月額30万円の場合残業時間(法定時間外)残業代の目安
基礎時給 約1,836円20時間約 45,918 円
同上45時間約 103,316 円

前提: 年間所定休日120日・1日8時間(1か月の平均所定労働時間 約163.3時間)、残業はすべて法定時間外(深夜・休日なし)、賞与を別に定めない前提での月額換算。当サイトの計算エンジンによる概算・目安です。実際の額は、年俸の分割方法・賞与部分の有無・所定労働時間・算定基礎に入る賃金の範囲によって変わります。自分の年俸で試すには残業代計算ツールに月額換算した額を入れてください。

5. 割増の扱いが変わる場合(管理監督者・裁量労働制)

年俸制であっても、次のような立場に当たる場合は、時間外・休日の割増賃金の扱いが変わることがあります。ただし、いずれも「年俸制だから」ではなく、別の制度の要件を満たすかどうかで決まる点に注意してください。

これらに当たるかどうかは個別の事情によります。「年俸制かつ管理職」といった場合でも、管理監督者の要件を満たさなければ一般の労働者と同じく割増賃金の対象になり得ます。

6. 迷ったときの公的な相談窓口

「年俸制で残業代が支払われていない気がする」「年俸に含まれているはずの残業代の内訳が分からない」と感じたときは、次の公的窓口で相談できます。いずれも無料で、匿名での相談も可能です。

受付時間などの最新情報は、各窓口の公式ページでご確認ください。当サイトは相談の受付や個別のあっせん・請求の代行は行っていません。

7. 次に確認したいこと

よくある質問

Q. 年俸制だと残業代は出ないのですか?
「年俸制だから残業代は出ない」は正確ではありません。賃金の決め方が年俸か月給かにかかわらず、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、原則として割増賃金を支払わなければなりません。時間外・休日・深夜の割増賃金は年俸制でも別途必要です。ただし管理監督者や裁量労働制などに当たる場合は、割増の扱いが変わることがあります。
Q. 年俸に残業代を含めることはできますか?
労使の合意で年俸に割増賃金を含めること自体は可能ですが、通常の賃金部分と割増賃金相当部分を区分できること、その割増賃金相当部分が法定額以上支払われていることが必要です。区分があいまいな場合や、含まれる割増賃金相当額に対応する時間数を超えて残業させ、その分の割増賃金が支払われていない場合は、労働基準法37条違反になり得ます。
Q. 年俸に含まれる賞与は残業代の計算基礎に入りますか?
通常の賞与は、あらかじめ額が確定しておらず1か月を超える期間ごとに支払われるため算定基礎から除外できます。しかし、年俸制で毎月払い部分と賞与部分を合計してあらかじめ年俸額が確定している場合、その賞与部分は「臨時の賃金」にも「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」にも当たらないため、割増賃金の基礎から除外できません。確定した年俸額を基礎に計算します。
Q. 年俸制の残業代はどうやって計算しますか?
考え方は月給制と同じで、基礎となる時給を求め、割増率と残業時間を掛けます。年俸制では年俸額を12で割った月額をもとに、1か月の平均所定労働時間で割って基礎時給を出すのが基本です。賞与部分が確定年俸に含まれる場合はその分も基礎に含めます。実際の額は所定労働時間や算定基礎に入る賃金の範囲で変わるため、概算・目安として扱ってください。
Q. 年俸制の残業代について相談したいときはどこに聞けばよいですか?
労働条件や残業代の一般的な相談は、労働基準監督署内の総合労働相談コーナーや厚生労働省「労働条件相談ほっとライン」などの公的窓口で受け付けています。無料・匿名で相談でき、雇用契約書・就業規則・給与明細を用意し、年俸の内訳(月例部分・賞与部分)と、年俸に割増賃金が含まれるか、含まれる場合は何時間分かを確認するとスムーズです。

参考にした情報(一次情報・取得日2026年7月22日)

※年俸に含まれる割増賃金が有効かどうか、追加の残業代が支払われるべきかは、契約書・就業規則・年俸の内訳・実際の勤務状況をふまえた個別判断です。制度・通達は変わる可能性があるため、最新の内容は厚生労働省・お近くの労働基準監督署でご確認ください。

本記事は一般的な制度の解説です(2026年7月時点。労働基準法および厚生労働省・労働局の公表資料に基づく概算・目安)。個別の年俸制の内容や、割増賃金が支払われるべきかどうかを判定するものではありません。実際の取り扱いは契約内容や勤務状況により異なり、判断に迷う場合は労働基準監督署などの公的窓口にご相談ください。個別のご相談には対応していません。
残業代計算ツールで自分の残業代を概算する