最終更新: (労働基準法37条・38条の2〜4の現行規定に対応)
裁量労働制に残業代は出ない?——みなし時間・深夜・休日割増の扱い
結論: 「裁量労働制だから残業代は出ない」は正確ではありません。裁量労働制は、実際の労働時間ではなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」働いたものとして扱う制度で、割増賃金そのものを免除する制度ではありません。①みなし労働時間が法定(1日8時間)を超えていれば時間外割増が必要、②深夜(22時〜翌5時)・法定休日の割増賃金は別途、原則どおり必要です。この記事で、混同されやすいポイントを整理します。
30秒でわかる「裁量労働制と残業代」
| 裁量労働制とは | 実際の時間でなく、あらかじめ定めた「みなし労働時間」働いたものとして扱う制度 |
|---|---|
| 残業代は出る? | みなし時間が法定(8時間)超なら、その分の時間外割増が必要 |
| 深夜割増は? | 裁量労働制でも深夜(原則22時〜翌5時)の割増賃金は別途必要(25%以上) |
| 休日割増は? | 法定休日の割増賃金も別途必要(35%以上) |
| 種類 | 事業場外みなし(38条の2)/専門業務型(38条の3)/企画業務型(38条の4) |
| 迷ったら | 労働基準監督署内の総合労働相談コーナーや労働条件相談ほっとラインへ |
深夜・休日割増を含む自分の残業代のめやすは残業代計算ツールで概算できます。割増率のまとめは残業代の割増率まとめをどうぞ。
1. 裁量労働制とは——「みなし労働時間」で計算する制度
裁量労働制は、仕事の進め方を大きく働く人の裁量にゆだねる必要がある業務について、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使で定めた「みなし労働時間」働いたものとして扱う制度です。たとえば「1日の労働時間は8時間とみなす」と定めれば、実際に7時間でも10時間でも、原則として8時間働いたものとして賃金を計算します。
労働基準法で「みなし労働時間」を用いる制度には、次の3つがあります。いずれも導入には、労使協定の締結や労使委員会の決議など、法律で定められた手続きが必要です。
| 事業場外みなし(38条の2) | 外回りの営業など、事業場の外で働き労働時間を把握しにくい場合に、所定労働時間などを働いたとみなす |
|---|---|
| 専門業務型裁量労働制(38条の3) | 研究開発、情報処理システムの設計、デザイナー、記者など厚生労働省令で定める専門業務が対象 |
| 企画業務型裁量労働制(38条の4) | 事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務が対象(労使委員会の決議が必要) |
「みなし残業(固定残業代)」とは別の制度です。両者の違いはみなし残業とは(よくある誤解)で整理しています。
2. 「裁量労働制=残業代なし」は不正確——みなし時間が法定を超えれば時間外割増
裁量労働制で「みなし」の対象になるのは、1日の労働時間の長さの算定です。ここを誤解して「残業代は一切出ない」と説明されることがありますが、そうではありません。みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間)を超えて定められている場合、その超えた部分は時間外労働として扱われ、時間外の割増賃金(25%以上)が必要になります。
たとえば、みなし労働時間を1日9時間と定めているなら、8時間を超える1時間分は毎日、時間外割増の対象です。この場合は36協定の締結・届出も必要になります。逆に、みなし労働時間が8時間ちょうど以内に収まっていれば、時間外の割増賃金は発生しません(深夜・休日は次章のとおり別扱いです)。
実際の労働時間がみなし時間より長くても短くても、支払いは原則として「みなし労働時間」を基準に計算されます。つまり、裁量労働制では実残業時間の長さそのものではなく、みなし労働時間の設定が時間外割増の有無を左右します。
3. 深夜割増は裁量労働制でも別途必要
見落とされやすいのが深夜手当です。裁量労働制やその他のみなし労働時間制でも、深夜業(原則として午後10時から翌午前5時まで)の割増賃金の規定は、原則どおり適用されます。「みなし」の対象は1日の労働時間の長さの算定であって、深夜に働いた事実に対する深夜割増まで免除されるわけではありません。
深夜割増の率は、通常の労働時間の賃金の25%以上です。たとえば割増賃金の基礎となる時給が1,500円の人が深夜に働いた場合、深夜1時間あたり375円(1,500円×25%)以上の深夜割増が加わる計算になります(当サイトの計算エンジンによる算定)。裁量労働制でも、深夜に働いた分はこの深夜割増の対象です。
4. 法定休日の割増も別途必要
深夜割増と同じく、法定休日に働いた場合の休日割増賃金(35%以上)も、裁量労働制で別途支払われる必要があります。みなし労働時間制で扱われるのは平日の労働時間の算定であり、法定休日の労働はその枠の外にあるためです。法定休日にも深夜(22時〜翌5時)にかかって働いた場合は、休日割増と深夜割増が重なり、あわせて60%以上の割増になります。
時間外・深夜・休日が重なったときの割増率の全体像は残業代の割増率まとめで、金額の考え方は残業代の計算方法で確認できます。自分のケースの概算は残業代計算ツールをどうぞ。
5. 迷ったときの公的な相談窓口
「自分の裁量労働制の運用は正しいのだろうか」「深夜・休日に働いた分の割増が支払われていない気がする」と感じたときは、次の公的窓口で相談できます。いずれも無料で、匿名での相談も可能です。
- 総合労働相談コーナー — 各都道府県労働局・労働基準監督署内に設置された相談窓口。厚生労働省の案内ページ
- 労働条件相談ほっとライン — 賃金不払残業などの労働基準関係の相談を無料・匿名で受け付ける電話窓口(厚生労働省委託事業)。確かめよう労働条件(専用ページ)
受付時間などの最新情報は、各窓口の公式ページでご確認ください。当サイトは相談の受付や個別のあっせん・請求の代行は行っていません。
6. 次に確認したいこと
- 自分の残業代のめやすを知りたい — 残業代計算ツール / 残業代の早見表
- 割増率の全体像 — 残業代の割増率まとめ(時間外・深夜・休日・60時間超)
- 「みなし残業」との違い — みなし残業とは(固定残業代とのちがい)
- 年俸制の場合は? — 年俸制に残業代は出ない? / 管理職の場合は? — 管理職に残業代は出ない?
- 残業代の平均額は? — 残業代の平均額(統計から見る目安)
よくある質問
- Q. 裁量労働制だと残業代は出ないのですか?
- 「裁量労働制だから残業代は出ない」は正確ではありません。裁量労働制は実際の時間でなく「みなし労働時間」働いたものとして扱う制度で、割増賃金そのものを免除する制度ではありません。みなし労働時間が法定(1日8時間)を超えていればその分の時間外割増が必要で、深夜・法定休日の割増賃金は別途、原則どおり支払われる必要があります。
- Q. 裁量労働制でも深夜手当は出ますか?
- はい。裁量労働制やその他のみなし労働時間制でも、深夜業(原則22時〜翌5時)の割増賃金の規定は原則どおり適用されます。「みなし」の対象は1日の労働時間の長さの算定であって、深夜に働いた事実に対する深夜割増(25%以上)まで免除されるわけではありません。法定休日の割増(35%以上)も同様に別途必要です。
- Q. みなし労働時間が8時間を超えると残業代はどうなりますか?
- みなし労働時間が法定(1日8時間)を超えて定められている場合、超える部分は時間外労働として時間外割増(25%以上)の対象になります。みなし労働時間を1日9時間と定めているなら、8時間を超える1時間分は毎日、時間外割増の対象です。この場合は36協定の締結・届出も必要です。
- Q. 裁量労働制にはどんな種類がありますか?
- 実際の時間でなくみなし時間で扱う制度には、事業場外労働のみなし労働時間制(労基法38条の2)、専門業務型裁量労働制(38条の3)、企画業務型裁量労働制(38条の4)があります。専門業務型は研究開発やデザイナーなど省令で定める業務、企画業務型は事業運営の企画・立案・調査・分析の業務が対象で、導入には法定の手続きが必要です。
- Q. 裁量労働制の残業代について相談したいときはどこに聞けばよいですか?
- 労働条件や残業代の一般的な相談は、労働基準監督署内の総合労働相談コーナーや厚生労働省「労働条件相談ほっとライン」などの公的窓口で受け付けています。無料・匿名で相談でき、雇用契約書・就業規則・労使協定(または決議)、給与明細を用意し、みなし労働時間の長さと深夜・休日労働の記録を確認するとスムーズです。
参考にした情報(一次情報・取得日2026年7月22日)
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第37条 — 時間外・休日・深夜の割増賃金(時間外25%以上・法定休日35%以上・深夜25%以上)。laws.e-gov.go.jp(e-Gov法令検索)
- 労働基準法第38条の2〜第38条の4 — 事業場外労働のみなし労働時間制、専門業務型・企画業務型裁量労働制の根拠条文。laws.e-gov.go.jp
- 茨城労働局「労働基準法のあらまし(みなし労働時間制、裁量労働制)」— みなし労働時間制・裁量労働制でも、休憩・法定休日に関する規定や深夜業の割増賃金の規定は原則どおり適用される。jsite.mhlw.go.jp
- 大阪労働局「よくあるご質問(時間外労働・休日労働・深夜労働)」— みなし労働時間に法定労働時間を超える時間外労働が含まれる場合は、これに対応する割増賃金を支払う。jsite.mhlw.go.jp
- 深夜割増の金額例は当サイトの計算エンジン(上記の公式な割増率25%に基づく)による試算値です。
※特定の裁量労働制の運用が適正かどうか、割増賃金が支払われるべきかどうかは、労使協定・決議・就業規則・実際の勤務状況をふまえた個別判断です。制度は変わる可能性があるため、最新の内容は厚生労働省・お近くの労働基準監督署でご確認ください。