最終更新: (令和8年分・国税庁タックスアンサーNo.1120ほかに基づく)
医療費控除とは?——いくらから使えて、いくら戻るのかをわかりやすく解説
結論から言うと、医療費控除は1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額(通常10万円)を超えた分をもとに、所得税と住民税の負担を軽くする所得控除です。差し引く額は原則10万円ですが、総所得金額等が200万円未満の人は「総所得金額等×5%」になるため、医療費が10万円以下でも使える場合があります。所得控除なので、戻るのは控除額そのものではなく控除を引く前後の税額の差です。この記事では「いくらから」「いくら戻る」の考え方と、混同されやすい高額療養費との違いまでをまとめて確認できます(金額はすべて概算・目安です)。
はじめに:「高額医療費控除」という制度はありません(高額療養費との違い)
検索でよく見かける「高額医療費控除」という一つの制度は、実は存在しません。これは別々の2つの制度が混ざった言葉で、最初に整理しておくと後がぐっと分かりやすくなります(2026年7月24日時点)。
| 高額療養費(制度) | 健康保険の仕組み。1か月の窓口負担が所得区分ごとの上限を超えた分が、健康保険から戻る(払い戻し)。 |
|---|---|
| 医療費控除 | 税金の仕組み。1年間の医療費をもとに確定申告で所得税・住民税が軽くなる所得控除。 |
2つは別の制度で、両方を使えることがあります。順番としては、まず入院・手術などで高額療養費で戻る分を受け取り、その戻った分を「保険金などで補填される金額」として医療費から差し引いてから、医療費控除を計算します(No.1120)。高額療養費のしくみは高額療養費制度とはで、自分の上限額は高額療養費シミュレーターで確認できます。
なお本記事は存命の方が行う通常の確定申告での医療費控除を扱います。亡くなった方(故人)のその年の医療費は、相続人が行う準確定申告という別の手続きの対象で、扱いが異なります(こちらは相続の手続きとして整理されます)。
30秒でわかる医療費控除
| どんな制度 | 1年間の医療費が一定額を超えた分をもとに、所得税・住民税が軽くなる所得控除(税額そのものを引く「税額控除」ではない) |
|---|---|
| だれが対象 | 自分または生計を一にする配偶者・親族のために医療費を払った人。会社員も自営業も対象 |
| いつの分 | その年の1月1日〜12月31日に実際に支払った医療費(未払い分はその年の対象外) |
| 差し引く額 | 原則10万円。ただし総所得金額等が200万円未満なら「総所得金額等×5%」(低い方) |
| 控除の上限 | 医療費控除額の上限は200万円 |
| 手続き | 年末調整では不可。自分で確定申告(還付申告)する。還付申告は翌年1月1日から5年間可能 |
1. 医療費控除の仕組み——控除額はこの式で決まる
医療費控除で最初に計算するのは、「いくら分を所得から差し引けるか」という医療費控除額です。国税庁の式は次のとおりです(No.1120・2026年7月24日取得)。
| 医療費控除額 | (1年間に支払った医療費 − 保険金などで補填される金額) − min(10万円, 総所得金額等×5%) ※上限200万円 |
|---|
ポイントは3つです。1つ目は、医療費から先に「保険金などで補填される金額」を引くこと。高額療養費・出産育児一時金・生命保険の入院給付金などが補填にあたります。補填はその給付の目的になった医療費を限度として差し引き、引ききれない分を他の医療費から引くことはしません(No.1120)。
2つ目は、差し引く額が「10万円」と「総所得金額等×5%」の低い方だという点です。多くの人は10万円ですが、総所得金額等が200万円未満だと5%の方が小さくなり、有利になります(次の章)。3つ目は、控除額の上限は200万円で、それ以上の医療費を払っても控除額は200万円で頭打ちになる点です。
2. 「いくらから使える?」——10万円を超えなくても使える場合がある
「医療費控除は10万円から」とよく言われますが、これはあくまで原則です。差し引く額は「10万円」と「総所得金額等×5%」の低い方なので、総所得金額等が200万円未満の人は、10万円を超えていなくても控除を使えることがあります。
たとえば給与収入160万円(給与所得86万円)の人が、1年間に医療費を80,000円払ったケースを見てみます。総所得金額等が200万円未満なので、差し引く額は「86万円×5%=43,000円」。医療費80,000円は10万円以下ですが、43,000円を超えているので控除が受けられます。
| 給与所得(=総所得金額等) | 860,000 円(200万円未満) |
|---|---|
| 1年間の医療費 | 80,000 円 |
| 差し引く額(総所得×5%) | 860,000 × 5% = 43,000 円 |
| 医療費控除額 | 80,000 − 43,000 = 37,000 円 |
当サイトの計算エンジンによる2026年分所得税・2027年度住民税(東京23区)の概算。給与のみ・独身・扶養なし・40歳未満、賞与なし、社会保険料236,172円を自動概算し、その他の控除はなし。このケースは所得税の課税所得が0で、所得税の軽減は0円、翌年度住民税の軽減目安が3,700円です。住民税の非課税該当など実際の条件で変わります。
3. 「いくら戻る?」——控除の前後で税額がどれだけ減るか(設例で確認)
医療費控除は所得控除なので、控除額そのものが戻る仕組みではありません。本記事の試算は医療費控除を引く前後の所得税額と翌年度住民税額の差です。税率区分・調整控除・端数処理の変化もあるため、控除額に一つの税率を掛けるだけでは一致しない場合があります。源泉徴収済額・納付済額を入力しないので、実際の返金額を確定するものではありません。
年収500万円の人が、1年間に医療費30万円を払い、高額療養費などで10万円の補填を受けたケースで見てみます。
| ① 1年間に支払った医療費 | 300,000 円 |
|---|---|
| ② 補填される金額(高額療養費など) | 100,000 円 |
| ③ 差し引く額(10万円側) | 100,000 円 |
| ④ 医療費控除額(①−②−③) | 300,000 − 100,000 − 100,000 = 100,000 円 |
| ⑤ 所得税の軽減目安(復興特別所得税込み) | 5,100 円 |
| ⑥ 翌年度住民税の軽減目安 | 10,000 円 |
| ⑦ 税額軽減の合計目安(⑤+⑥) | 5,100 + 10,000 = 15,100 円 |
当サイトの計算エンジンによる概算。2026年分の通常所得税・2027年度住民税(東京23区)、給与のみ・独身・扶養なし・40歳未満、賞与なし、社会保険料は自動概算です。給与所得3,560,000円、社会保険料723,132円で、所得税の課税所得は控除前1,796,000円・控除後1,696,000円。その他の所得控除・税額控除は見込んでいません。所得税の軽減は5,100円、翌年度住民税の軽減は10,000円です。実際の還付は源泉徴収済額・納付済額等で変わります。
あなたの年収・医療費・補填額で戻り額の目安を出す4. 高額療養費で戻った分は「補填」として差し引く
3章の②で出てきた「補填される金額」を、高額療養費との関係でもう少し具体的に見ておきます。入院や手術で高額療養費が戻った場合、その戻った分は医療費控除の計算では医療費から差し引きます(No.1120)。ここを忘れると、控除額を多く見積もりすぎてしまいます。
たとえば1年間の医療費が50万円で、そのうち高額療養費として20万円が戻ったケースでは、次のようになります。
| 1年間に支払った医療費 | 500,000 円 |
|---|---|
| 高額療養費で戻った分(補填) | 200,000 円 |
| 差し引き後の医療費 | 500,000 − 200,000 = 300,000 円 |
| 差し引く額(10万円側) | 100,000 円 |
| 医療費控除額 | 300,000 − 100,000 = 200,000 円 |
当サイトの計算エンジンによる概算(総所得金額等は200万円以上=差し引く額は10万円)。補填はその給付の目的になった医療費を限度に差し引くため、たとえば出産育児一時金は出産費用から、入院給付金は入院費から差し引く、というひも付きの相殺です。高額療養費の払い戻し目安は高額療養費シミュレーターで確認できます。
5. 手続きは確定申告(年末調整ではできない)——2026年分は2027年に申告
医療費控除は年末調整では受けられません。給与から天引きで年末調整を受けている会社員でも、医療費控除だけは自分で確定申告(還付申告)をする必要があります。ここが「会社員でも申告が要る」数少ない項目のひとつです(No.1120)。
申告の時期は、その年の翌年です。2026年(令和8年)分の医療費なら、通常の確定申告期間である2027年(令和9年)2月16日から3月15日に申告します。医療費控除のように税金が戻る「還付申告」は、確定申告期間を待たずに翌年1月1日から提出でき、対象の年の翌年から5年間さかのぼって申告できます。
申告書には「医療費控除の明細書」を添付します。領収書の提出・提示は不要になりましたが、5年間は自宅で保存する義務があります。マイナポータルとe-Taxを連携すると、医療費通知の情報を取得して明細書の作成を簡単にできます。
申告のやり方・明細書の書き方は、別途くわしい記事でご案内する予定です。まずは自分の戻り額の目安を医療費控除シミュレーターで確認しておくと、申告するかどうかの判断がしやすくなります。
6. 対象になる医療費・ならない医療費/市販薬の特例
医療費控除の対象は、おおまかに言えば「治療のために一般的に必要な費用」です。診療・治療の対価、治療に必要な医薬品、通院費(原則は公共交通機関)、入院の食事代などが含まれます。一方、健康診断の費用・医師への謝礼・美容目的の費用・自家用車のガソリン代や駐車場代などは原則対象外です。
どこまでが対象になるかは、具体例で見た方が分かりやすいので、医療費控除の対象になるもの・ならないもの一覧にまとめました。通院交通費・歯科・出産・入院・市販薬などを、国税庁の区分ごとに整理しています。
なお、ドラッグストアで買える一部の市販薬(スイッチOTC医薬品など)については、通常の医療費控除の代わりにセルフメディケーション税制という特例を選べる場合があります。年間12,000円を超える部分(上限88,000円)が控除対象で、通常の医療費控除とは選択適用(どちらか一方のみ・併用不可)です。本記事と計算ツールは2026年中の支払分を対象にしています。2027年以降は対象区分が変わるため、厚生労働省の公式資料で確認してください。
7. 次に確認したいこと
- 自分はいくら戻るのか知りたい — 医療費控除シミュレーター
- 何が対象で何が対象外か知りたい — 医療費控除の対象・対象外一覧
- 申告のやり方・明細書・いつまでにやるか知りたい — 医療費控除のやり方(確定申告・明細書)
- 市販薬で控除を受けたい/どちらが得か — セルフメディケーション税制とは
- 高額療養費のしくみ・自分の上限額を知りたい — 高額療養費制度とは / 高額療養費シミュレーター
よくある質問
- Q. 医療費控除とは何ですか?
- その年に自分や生計を一にする家族のために払った医療費が一定額を超えたとき、超えた分をもとに所得税と住民税が軽くなる所得控除です。控除額は「(医療費−補填される金額)−10万円(総所得金額等200万円未満は総所得金額等×5%)」で、上限は200万円。税額の軽減は、控除額そのものではなく控除を引く前後の税額の差です。
- Q. 医療費控除はいくらから使えますか?
- 多くの場合、医療費(補填を除く)が10万円を超えた分からです。ただし総所得金額等が200万円未満の人は差し引く額が「総所得金額等×5%」になるため、10万円以下でも使える場合があります。2026年の給与収入160万円・給与以外の所得なしなら給与所得は86万円で、差し引く額は43,000円、医療費80,000円・補填なしの控除額は37,000円です(当サイト概算)。
- Q. 医療費控除でいくら戻りますか?
- 本記事では控除前後の税額差を試算しています。給与年収500万円・医療費30万円・補填10万円、独身・扶養なし・40歳未満、賞与なし、社会保険料を自動概算し他の控除なしの場合、控除額100,000円、2026年分所得税の軽減5,100円、2027年度住民税(東京23区)の軽減10,000円、合計15,100円が目安です。源泉徴収済額・納付済額を考慮しないため、実際の返金額ではありません。
- Q. 「高額医療費控除」という制度はありますか?
- ありません。健康保険の「高額療養費」と税金の「医療費控除」が混ざった言葉です。高額療養費は1か月の窓口負担の上限を超えた分が健康保険から戻る仕組み、医療費控除は1年間の医療費をもとに確定申告で税金が軽くなる仕組みです。申告のときは高額療養費で戻った分を医療費から差し引いて控除額を計算します。
- Q. 医療費控除は年末調整でできますか?
- できません。自分で確定申告(還付申告)が必要です。会社員でも医療費控除だけは別に申告します。還付申告は対象の年の翌年1月1日から5年間可能で、2026年(令和8年)分なら2027年(令和9年)2月16日〜3月15日の確定申告期間に申告できます(還付申告は2027年1月からでも可)。
参考にした一次情報(取得日2026年7月24日)
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費を支払ったとき(医療費控除)」— 計算式・10万円/総所得5%・上限200万円・生計を一・補填の差し引き・確定申告(還付申告)・5年保存。nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」— 所得税の速算表(限界税率)。nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.1129「特定一般用医薬品等購入費を支払ったとき(セルフメディケーション税制)」— 12,000円超・上限88,000円・選択適用。nta.go.jp
- 金額の計算例は2026年10月4日に当サイトの年税エンジンで再計算した概算です。通常2026年分所得税・2027年度住民税(東京23区)の前後差を使用しています。
- 2026年通常年税の基礎控除・給与所得: 国税庁No.1199 / 国税庁・令和8年分の合計所得金額(PDF)。翌年度住民税: 大田区・令和9年度税制改正(2026年10月4日確認)。
- 厚生労働省「セルフメディケーション税制」・令和9年1月1日施行の法令。2026年に制度全体が終了する意味ではありません(2026年10月4日確認)。制度概要・対象医薬品 / 改正後法令(PDF)